2008年11月08日

腹部外傷の診療に関して

緊急性が非常に高い場合
鈍的、鋭的外傷にかかわらず、ER受診時に腹部膨隆や緊満が存在し、血圧低下(ショック)、意識障害を伴っている場合、間髪を入れず緊急手術が必要である。
どの臓器にどの程度の障害を伴っていようが出血性ショックであり、止血手術を第1義におこなわなければならない。クロスマッチと輸血の準備を迅速におこなう。
CTその他の精査に要する時間は患者の病態を悪化させる効果しかなくむしろ無用な検査である。胸写、心電図、入院時一般採血、凝固系は当然必要である。輸血ルートは最低2箇所確保する。こういうケースでは救急外来に手術の出来る設備が備わっていることが望ましい。セルセイバー(消化管の損傷が無いと思われる場合)の使用も考慮しMEにスタンバイを依頼しておく。


少しだけ様子が見れる場合
バイタルが安定し意識も清明で腹部緊満もさほどない場合
1. 腹部鋭的外傷
a. 刃物が刺さったまま搬送された場合、決して外来で抜去してはならない。
すでに抜去された状態で搬送され腸管などが体表に露出している場合は生理食塩水を含むガーゼで覆う。また外来でポラロイドその他の証拠写真を必ず撮っておく。
b. CT等の精査に関しては、搬送時の体動は厳重に注意する。損傷しかけた臓器が裂けたり、一時的に止血された出血源からの再出血が起こる可能性がある。

2. 腹部鈍的外傷
a. 膵、脾、肝、十二指腸、腸管膜の損傷がないかが問題。
腹部単純写で腸腰筋に沿った後腹膜のfree airの有無、CTやエコーでの断裂や血腫、 阻血の有無を確認。胸部の副損傷は無いかを確認。
b. fluid collectionが認められる場合、腹腔穿刺を積極的におこなって排液の性状把握と検査出しをおこなう。
c. 強度の鈍的外傷では、骨盤骨折を伴っていることも多く、迅速なembolizationの依頼も考慮しておく。
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腹痛 <女性編>

<ポイント>
子宮外妊娠をはじめ緊急性の高い疾患を見逃さない
疾患を想定して診療をすすめる必要がある
判断に悩むときは婦人科、外科に相談する
妊娠の有無を確認することは重要である


<受診直後に行うこと>
(1)バイタルサインの確認
症状の程度に関わらず必ず確認。意識レベル、呼吸数を省略しない。四肢の冷感を伴う発汗・顔面蒼白は、腹腔内出血や不正出血による大量出血を追求するサイン。


(2)緊急疾患のリストアップ
腹痛を強く訴えている方を前に、悠長に完全なる病歴聴取・診察・検査をすることは現実的ではない。では、どうすればいいのだろうか?「緊急性の高い疾患を見逃さない」という意志をもって診察を進めることにつきる。見逃さないための第一歩は、緊急性の高い疾患(下記)を知ることだ。
【緊急性の高い疾患】
(@)「男女を問わず緊急性あり」
絞扼性イレウス、消化管穿孔、虫垂炎穿孔、大動脈破裂、腸間膜血管血栓症、化膿性胆管炎、急性膵炎、外傷性臓器破裂
(A)「女性に特有(非妊娠時)」
出血性卵巣嚢胞の破裂、卵巣嚢腫頚捻転、卵管膿瘍の破裂
(B)「妊娠に関連したもの」
妊娠早期:流産、子宮外妊娠の破裂
妊娠後期:子癇前症、胎盤早期剥離、陣痛

<診療のアウトライン>
1 疾患を推測する:疾患名を挙げる、その可能性、重症度・緊急性を考える


2 次の方針を決める:検査、他の医師に相談、治療(手術、特異的治療、対症療法)


3 方針を決定できないときは、経過を追いつつ1と2を繰り返す


<疾患を推測する>
症状と身体所見から、可能性の高い疾患をリストアップする。重症度・緊急性も考えてみる。婦人科疾患を忘れずに必ず想起する。腹痛の存在部位から疾患を絞る。(下記)

【腹痛の部位と疾患】
(@)上腹部痛
妊娠中の虫垂炎、子癇前症、Fitz-Hugh-Curtis症候群、胆道系疾患、急性膵炎、消化性潰瘍(穿孔、穿通)、脾膿瘍、脾梗塞、腎梗塞、腎周囲炎、大動脈破裂、心筋梗塞
(A)下腹部痛
子宮外妊娠、卵管膿瘍、卵巣腫瘍頚捻転、虫垂炎、憩室炎、骨盤内感染症、卵巣出血、尿路結石、膀胱炎
(B)腹部全体
腹膜炎をきたす疾患、腹腔内出血、腸間膜血管血栓症、腸閉塞、急性下痢症

(1)腹痛の様式
疼痛の程度で重症度を推定する。尿路結石症のように対症療法で短時間に軽快するものを除くと、強い疼痛の持続時には緊急性、重症度の高い疾患を想定する。強い疼痛とは、痛みのために歩けない、動けない、まともに会話できない、平常の顔つきや姿勢がとれない、という場合である。突然発症でピークに達する痛みは、血管・管腔臓器の閉塞・破裂を示唆する。
【婦人科疾患を示唆する病歴】
(@)下腹部痛:
片側、両側、部位不定、いずれの場合もあり得る
(A)月経異常:
いつもと異なる生理出血、過去数回の生理周期の変動
(B)腹痛の発症と前後する不正出血:
子宮外妊娠、流産の鑑別を要す
(C)婦人科疾患の既往:
子宮外妊娠、骨盤内感染症の既往は、それぞれの疾患のリスクを高める。直径5cm以上の卵巣嚢腫の既往は、頸捻転のリスクを高める
(D)IUDの使用、卵管結索術の既往:
子宮外妊娠のリスクを高める

(2)妊娠について
初診時に率直な返答を期待できるとは限らないが、重要な情報である。妊娠の有無は診療に大きな影響を与えることを説明し、正確な返答を得る工夫をする。生理の遅れを尋ねることで誘導したり、心理的抵抗を和らげる目的で腹部診察時に尋ねてみることもある。


(3)身体所見
起立性血圧低下、頻脈、顔色蒼白は、出血性ショックを示唆。歩行時の姿勢や表情が平常でない時は、腹膜炎の可能性を考慮。下腹部痛では、下着に覆われている鼠径ヘルニア、外陰部・肛門部のヘルペスを見逃さない。腎盂腎炎や腎周囲感染症を疑ったら、拳ではなく2−3本の指で腰背部を押した時の反応をみる。腹膜刺激の確認には、反跳痛を使用せずに腹壁を指で軽く打診した際の患者の表情と訴えで代用する。指のほうが程度を加減しやすく、加減具合で腹膜炎に対する自分なりの感度を体得する。妊娠子宮の増大に伴い虫垂位置が右外側で上方に移動していることを忘れない。子宮頚部の可動痛は、骨盤内感染症を示唆する。他の疾患でも陽性を示すが婦人科に相談する有力な根拠になる。骨盤内炎症の疼痛は片側とは限らない。むしろ局在は不明瞭で下腹部全体に強い圧痛を訴える。

<次の方針を決める>
症状や診察からで疾患を絞り込んだ後は、検査を利用して「推測した疾患が存在する可能性」をより正確に修正する。

(1)臨床検査
白血球やCRPの上昇がないことだけを根拠に、炎症・感染症を除外しない。虫垂炎や敗血症でも、発症時には正常で翌日急上昇することがある。妊娠時には白血球数が1万を越えるため、白血球軽度上昇だけで感染症・炎症と判断することは避ける。その逆に、白血球増加を妊娠のせいと断定して炎症・感染症の徴候を軽視することも避ける。子宮外妊娠や出血性卵巣嚢腫の破裂による腹腔内出血の場合、初診時の結果よりも強い貧血が存在すると予想する。右上腹部痛の妊婦の肝障害を胆石症と断定する前に、子癇前症、HELLP症候群の可能性を考慮して、妊娠中毒(高血圧、蛋白尿)の確認をする。尿中白血球増加は、尿管に隣接する臓器の炎症、例えば虫垂炎でも認めることがある。
妊娠を疑って行う妊娠反応は保険診療外だが、子宮外妊娠を疑って行う場合は保険でカバーされる。尿中hCGテストパックは、最終月経の初日から5週目で確実に陽性を示す。必要性を説明して行う。


(1)画像検査
腹痛診療で、画像診断は有力な道具である。妊婦に対して腹部写真やCTを行う場合には、画像から得られる情報がアウトカムをどれほど変化させるか、を考えた上で使用する。
(@)単純写真
消化管破裂を疑ったら、立位胸部写真で横隔膜下の遊離ガスを探す。破裂症例の40-60%は偽陰性になるので、疑いが強い場合はCTでの確認を要する。虫垂炎に伴う糞石は、存在すれば虫垂炎の可能性を高めるが、急性虫垂炎の10%程度にしか伴わない。
(A)超音波検査、腹部CT
虫垂炎、内ヘルニア、消化管破裂、憩室炎周囲の膿瘍、卵巣卵管膿瘍、腸間膜血管の閉塞、大動脈の損傷、脾臓や腎臓梗塞、腹腔内体液貯留、の存在証明は緊急手術につながる決定的根拠になる。
骨盤内腫瘤では、頚捻転、endmetrioma、卵巣嚢腫の破裂、の鑑別が必要だ。
妊娠時には放射線画像検査の使用を慎重に考慮する必要があることはいうまでもないが、一回の腹部単純撮影やCT撮影の線量で必ずしも胎児に危険なレベルに達するわけではない。超音波検査に代用を求めることができず、腹部CTの結果でしか手術適応を判断できないような局面では(例:消化管穿孔を疑う臨床症状の妊婦で、単純写真では遊離ガスを証明できない)、不必要な不安を与えないように説明し同意を得る。最悪なのは、CTを避けることで診断治療が遅れ、母体や胎児の生命予後を悪化させることだ。


(3)現実的な判断
急性腹痛の診療において、「心配ないです」と自信をもって伝えられることは極めて少ない。なぜだろうか?これさえあれば(なければ)安心、という徴候、所見、検査が極めて少ないからである。その数少ない安全なものは@明らかに急性下痢症に伴う腹痛A対症療法で簡単に軽快した尿路結石B分布に沿って疼痛の存在を確認できた帯状疱疹、である。鑑別にリストアップした緊急性の高い疾患について「存在を除外できるほど可能性が十分に低いこと」を確認するまで不安はつきまとう。緊急性のある疾患の可能性が残れば、外科や産婦人科に相談するべきだ。困難さのあまり「おそらく大丈夫であろう」と軽率な判断を下すことは避けたい。


(4)ピットフォールの点検
方針を決定する前に思わぬ疾患が漏れていないかどうかを考える習慣をつける。なんと言っても、妊娠がないかどうかである。可能な限り妊娠反応で確認をとりたい。下腹部膨瘤を伴う腹痛の高校生に対して、膀胱閉塞と早合点して導尿を試み、児頭の出現を確認したことがある。家族は誰も妊娠に気づいていなかった。「女性をみたら妊娠と思え」は不滅の名言である。


(5)婦人科への相談
相談すべきもの:不正出血を伴う腹痛(子宮外妊娠、流産)、妊娠中の強い子宮部痛(早産、胎盤早期剥離)、妊娠に合併した虫垂炎、婦人科疾患を疑うが根拠に乏しく、その可能性を明確にするために、婦人科医の意見や内診・経膣エコーを依頼するとき

何れの場合も、情報を整理し何を求めて相談しているのかを明確に伝える。


(6)妊娠中の虫垂炎疑いを外科に相談
虫垂炎を疑ったときの対応は、非妊娠時と比して手術選択する傾向が高い。主な理由は、虫垂破裂による腹膜炎の合併が胎児死亡のリスクを高めるからである。妊娠に合併した虫垂切除で、50%の偽陽性はやむを得ないという意見はこの方針に基づいている。
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2008年11月11日

熱傷

1. 熱傷(burn)とは?
・ 熱(thermal burn)、または化学物質(chemical burn)・電気(electrical burn)等により、皮膚またはそれより深い部分が損傷を受けた状態。
重傷熱傷はdynamicな病態の変化を伴う死亡率の高い全身疾患である。
 →救命のためには集中的な状態のモニターと変化に対するrealtimeな対応が不可欠。
・ 外傷性ストレスの見本。外科侵襲学の優良教材。

2. 熱傷の病態  
・熱傷により、局所になにが起きるのか?
A. 熱による組織の直接傷害。
B. 組織傷害に伴う炎症反応。

・熱傷により、からだ全体になにが起きるのか?
A. 正常皮膚が損傷を受けることにより、皮膚のもつ生理機能を果たせなくなる。(-)
・ 保護機能(生物学的・物理的・化学的 etc.)、体温調節機能、知覚機能

B. 損傷した皮膚が体全体に悪影響を及ぼす(サイトカイン,化学伝達物質)。(+)
・ 血管透過性の亢進、全身性炎症、敗血症、代謝の変異

実際にはA・B両要素が入り交じっている。

3. 熱傷の予後因子(重症度)  
@受傷面積  A年齢  B熱傷深度
・Burn index(BI): U度熱傷面積%×1/2 + V度熱傷面積%
10〜15以上で重症
・予後指数(PBI): U度熱傷面積%×1/2 + V度熱傷面積% + 年齢
PBI 110以上での救命率は非常に低い

Point : 年寄りにとって全身熱傷はいきなりフルマラソンに出場させられるようなもの。完走(救命)はたいへん。

4. 評価  
A. 問診(本人、付き添い、又は救急隊員)
・ 年齢・性別・既往歴(心、肺、腎、DM、精神疾患等)
・ 受傷状況(いつ、どこで、何によって、どのくらいの間、なぜ)
(特に熱源の温度と、曝露or接触時間が重要)
*受傷機転は精神疾患や薬物依存等の存在を示唆する事あり
*交通事故等は外傷の合併を疑う

B. 身体所見
Tips 1.他のけがを見落とすな。
2.全身管理は受傷面積で、局所処置は深達度により決定。
3.治療方針はSDBとDDBとの間で分かれる。
1)全身的
・ vital sign
・ 意識状態(CO中毒、頭頚部外傷、薬物、精神疾患)
・ 外傷の有無(火災、爆発、事故)

2)局所的
・ 受傷部位(被覆部、露出部)
・ 深さ T度 局所の発赤のみ  
U度 水疱形成 真皮に達する SDB 保存的治療で可
DDB 瘢痕治癒
V度 皮下組織以下に達する熱傷  

・ 深さの評価 : pin prick test、圧迫、毛を引っ張ってみる、生検
Tips 1. おさえる → 色の変化なし → 真皮の毛細血管網凝固
2. ひっぱる(毛) → すっと抜ける → 付属器レベルの傷害
3. ひっかく → 痛まない
血が出ない →→→→→
1〜3の所見はDDB以上の深達度を示唆する。

・ 拡がり
% BSAで表現(☆受傷面積にはT゜は含めない)
9の法則(成人) Lund-Browderの法則(特に小児)
(☆必ず着衣の下も見ておく)
簡便法  患者の手のひらを約1%として見積もる。

・ 気道熱傷の有無
疑わせる状況 : 火炎による顔面熱傷
口腔鼻粘膜の熱傷
閉鎖空間での受傷(高温気体の吸入)
喀痰中の炭化物  嗄声  咳嗽
意識障害

C. 検査所見(全身管理が必要な場合)
・ 採血(CBC、生化、ABG、CK、COヘモグロビンetc.)
・ 検尿(血色素の有無)
・ 胸写、ECG
・ 体重測定

5. 判断  
A. 外来治療(局所治療のみ)
・ 基礎疾患を持たない成人の20%以下の熱傷
・ 基礎疾患を持つ成人の  10%以下の熱傷
・ 幼小児、70才以上の老人の10%以下の熱傷
・ T゜熱傷
                
B.入院治療
・ 成人で20%、幼小児で10%以上の熱傷
・ 顔面の熱傷、気道熱傷が疑われるもの
・ V゜の熱傷
・ 陰股部の熱傷
・ 70才以上、または5才以下の熱傷
・ 重要臓器疾患の合併
・ 自殺企図、精神疾患が疑われるもの

これらは早急な全身管理が必要  →  皮膚科Dr.コールを
☆ 熱傷患者は受傷後早期には実際の重傷度よりも元気に見える事が多い
☆ 受傷後早期の熱傷の深さ、範囲の判定はしばしば困難である

6. 対処  
Tips まず何はともあれ、冷やす(電話を受けた時点から)。

治療の原則
・ 初期循環動態の安定(ショック、乏尿期からの離脱)
・ 熱傷面の早期閉鎖(焼痂の切除、植皮)
・ 感染対策(デブリードマン)

A. 全身管理
1) IV line 確保 : なるべく受傷していない末梢より、太めのサーフロー針で
2) 尿道カテーテル留置
3) A line 確保(重傷熱傷の場合)
4) 気管内挿管(必要な場合)

B. モニター
1) バイタルサイン
2) 尿量(0.5〜1ml/Kg/hr)
3) ヘモグラム(WBC Plt Ht Hgb)、TP、アルブミン
4) 必要ならCVP、PCWPも

C. 局所処置
1)指輪、腕時計、腕輪等の除去:
浮腫が著明になると血行阻害の原因となる → 診察時に外しておく
2)冷却: 受傷直後の場合、30〜45分(体温低下に注意)
3)消毒: イソジン、ステリクロン等
4)外用療法:
・ T゜ : 創面の保護・抗炎症が主眼
 →ステロイド外用剤(リンデロンVG軟膏)、リバ湿布
・ U゜SDB : 創の保護と、感染予防
エキザルベ、又はワセリン基剤の抗生物質含有軟膏(ex.アクロマイシン軟膏)をトレックスガーゼにのばして貼付
水疱は愛護的に、内容を吸引(最上のバイオロジカル・ドレッシング)
・ U゜DDB、V : 感染予防(焼痂を通して浸透するもの) → ゲーベンクリーム
ケミカル・デブリ → リフラップ軟膏+DZS、バリダーゼゲルetc.

5)減張切開(全周性の創と浮腫による絞扼・末梢循環障害の予防)

D. 輸液療法
・ 種類 : 乳酸加リンゲル液 コロイド溶液は原則として受傷後12時間過ぎてから
(創よりの浸出、血管透過性亢進、異化の亢進等からの低蛋白、低アルブミン血症に対して、血管内ボリュームの保持のために長期間、大量の FFPやアルブミンの投与を必要とする事もある)
・ 量 : Baxter法に準じて (ml/時;1/2×体重×%BSAで開始)
指標 尿量(0.5〜1ml/Kg/hr)、血圧、ヘモグラム、必要ならCVP
* HLS(Hypertonic Lactated Saline Solution)
・ 機能的細胞外液、Naの確保。利尿、浮腫軽減、心収縮力増強、総輸液量低減
・ 30%以上の重症熱傷(特に気道熱傷合併例)が適応
・ 6才以下の幼児、脱水の合併例は除外(高ナトリウム血症注意)

運用の実際
HLS300 : 2000ml
HLS250 : 1000ml
HLS200 : 1000ml
HLS150 : 受傷後48時間まで
ソルラクト
(ヴィーンFも可) : 受傷後72時間まで
開始速度はBaxter法の1/2量から(ml/時;1/4 ×体重×%BSA)
その後は尿量(0.5〜1ml/kg/時)を指標に調節。

*HLS液の調製
製剤ソルラクト1モル乳酸Na液
(1A=20ml)
Na(mEq/l)
HLS300500ml+121ml299.5
HLS250500ml +80ml250.0
HLS200500ml +43ml198.7
HLS150500ml +11ml148.9
*血漿製剤は12〜24時間後より投与


E. 薬物療法
・ 抗潰瘍剤: H2-blocker(タガメット、ガスター)
・ カテコールアミン: ドパミン(イノバン), ドブタミン(ドブトレックス)
・ ウリナスタチン
 (ミラクリッド): キサンチン−キサンチンオキシダーゼ系抑制
・ ビタミンC 4g/hr: 受傷後48〜72hr
・ 抗生物質: 熱傷面の閉鎖に至るまでの長期的展望の上で計画的に選択

F. 手術
・ デブリードマン: タンジェンシャル・エクシジョン、筋膜上切除
・ 植皮術(全層、分層): メッシュグラフト、パッチグラフト
・ 一時的ストーマ作成

G. 栄養管理
・ 受傷後早期はエネルギー利用効率が低下しているため、輸液も循環動態改善を優先した内容にする。
・ 循環動態が安定したら原則として経腸管的な栄養管理を行う。
・ 不感蒸泄に伴うエネルギー消失を少なくするため室温を高めに保つ。

7. 特殊な熱傷  
・ 電撃傷: 深部組織の損傷程度が重症度を左右。
・ ミオグロビン尿(ポートワイン様, 急性腎不全)
・ 内蔵の損傷

・ 化学熱傷: 原因薬剤により異なる対応。 ・ フッ化水素酸: カルチコール局注、カルシウム全身投与
・ 強アルカリ: 1時間水洗

・ 小児の熱傷: 成人に比べ細胞外液が多い → 脱水に注意
真皮が薄く瘢痕を残しやすい。
・ 気道熱傷:
高温の気体を吸入して( heat injury) ・・・ 主に上気道の障害
        有毒化学物質や大量の煤煙の吸入(chemical injury) ・・・ 末梢気道や肺胞にも障害

・ 会陰部・肛門周囲の熱傷: 尿・便による汚染。早期手術の対象部位。
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腹腔内出血

診断と処置の手順
@まず胸部単純X-Pで出血のおおよその部位と出血量を推定する
(左右の胸腔か縦隔か程度でよい)

A胸腔内への出血があれば、原則として胸腔ドレーンを挿入する
(心嚢以外の縦隔内へのドレーンはできないと思っていい)

B血算を確認し要あれば輸血を指示

C見ている前でどんどん血圧が下がるようならおそらく心大血管損傷ですぐ上級医と専門医を呼ぶ

D輸液で血圧が維持できそうならドレーンからの出血の状況をしばらく観察しつつ他の処置を続行
(といっても10分程度で大まかな判断は必要)

<出血部位の同定>

鋭的外傷では傷口にだまされるな

胸腔と縦隔内のすべての臓器が検索の対象になる。刃物などによる鋭的損傷はどこに損傷があっても不自然ではない。前胸部に傷がないと心臓損傷が無いと言うことはない。刃物もまっすぐとは限らない。腹か胸かわからないときもある。骨性胸郭で守られているので意外に体腔内に貫通していないことも多い。鋭的外傷にはルールはない。

鈍的外傷では手術になることは少ない

これに反して鈍的外傷による出血は推定しやすい。損傷し易い部位や出血の程度にはある程度の規則性がある(様に見える)。例えば鈍的外傷による肺実質損傷では外科的処置が必要な出血となることはほとんどない。緊急手術になるとすれば気瘻がひどくドレナージではコントロールできない場合だけである。

知っている血管からの出血と思うな

肋骨骨折の骨折端からの出血も意外と止血しうる。また鈍的外傷で肺動脈や肺静脈が裂けていることも見たことがない。もし裂けて胸腔内に出血したらまず即死だろう。肺動静脈損傷の患者が幸運にも生きて運ばれてきたら分単位で状態は悪化するはずなので診断に迷う余裕は無いはずだ。診察時に大量出血しているからといって必ずしも諸君の知っているような大きい血管から出血しているとは限らない。むしろ細い血管から陰圧の胸腔内へ持続して出血しているような場合が多い。肺が萎縮した胸腔には何リットルもの容積の空洞があって全身の血液を貯め込むことだってできる。特発性血気胸という病気は数リットルもの出血を来す自然気胸の一種だ。ブラにつながる2〜3ミリの細い一条の血管から出血する。止血は5分で終わる。信じがたいが事実だ。

現実的な推定方法は?

場所を推定するにはCT(できれば造影)が一番で、状態が許せば行うべきであろう。造影剤の漏出がわかれば最高だが緊急時に自信をもって出血源と指摘できるような所見を得ることは難しいかもしれない。火事の火元の推定にはもっとも焼け焦げたところを探す方法があるそうだが出血源を推定する場合も、もっとも血腫が貯まっているところを探すと良い。その際に『胸部』というようなおおざっぱな見方でなく『(右左の)胸腔』と『縦隔』の少なくとも3つの区画のどこに主体があるか見よう。そしてどの構造物の近くか考えてみよう。かなり診断に近づけると思う。おなかと違って傷一つで胸腔内全部の臓器の手術ができるわけではない。
CTは二次元の胸部レントゲンではわからない気胸も見つけやすいし、肺実質内の損傷の程度も把握しやすい。時間経過のコントロールとしての意義も大きい。

ここで出血が少ないからといって安心できない。出血、気瘻ともに臓器から出てきて貯まるまでには時間がかかることがあって時間経過が最も重要な因子だ。特に外傷患者では状態は時々刻々と変わるので検査所見はいつも過去のものだという意識を忘れないでほしい。


<大量出血の定義はない>

どのくらい出血すれば手術かという基準値はない。いろいろ教科書には記載されているが大量出血の正確な定義はない。特に外傷では受傷から診察あるいはドレナージ開始までの時間が様々なので一律に数字をあげることはできない。ドレナージ開始直後や体位変換時には貯溜した血液が一気に出るので驚かされることが多い。冷静に。
ドレナージ開始前の画像診断から推定される量を超えて排液しても、なお継続して出血しているようなら外科的処置を検討すべき出血の可能性高い。
外傷性の血胸を時間あたり何cc出血しているか、1時間も2時間も観察しているような余裕は普通無い。そんなときはショックに注意しながらドレーン内に貯まる出血をドレーンバッグにすべて落とし、ドレーンの中をよく見てみよう。ドレーン内を血液のすじがとぎれなく落ちているような出血は200ml/hr以上はある。このぐらいの出血があるなら手術を検討したい。時間とともにそのすじが水滴状にとぎれてくればまず保存的に見られるだろう。一度、胸腔内の出血をバックに落としてからと言う点を忘れずに。


<出血は血腫で止めずに肺で押さえる>

出血がひどいとき血腫自身が出血を押さえることはあり得る。縦隔内のかなり限定された条件でこの方法で治癒した症例はある。が、しかし特に胸腔内ではこの方法は避けるべきと考える。胸腔内の出血は必ずドレナージし肺の膨張をはかって、再膨張した肺で壁側胸膜側からの出血を押さえるようにする。もしそれで大量の出血が継続するようなら外科治療を考慮する。多くの胸部外傷による血胸は気胸を伴っており胸腔内に広大な(数リットルの容量を持つ)空洞を形成している。萎縮した肺の上に重い血腫が貯まってしまうと例え気瘻が止まっても能動的に肺が再膨張する可能性はない。例え止血し得ても血腫が吸収される過程で肺の臓側胸膜には厚い線維性肥厚が形成され、肺に拘束性障害を残す。これは難治性で、結果としてのちのち面倒な外科的治療(剥皮術)が必要となる。



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